研究概要 |
本研究の自的は,卓球選手の打球直前の動作修正が,選手の内観の通り,自領コートでのバウンドから打球までの間の,ボールの視覚情報を用いて行われているかについて検討することであった.検討課題は,1)打球直前の動作修正時の上肢の筋活動とラケットの動きの関係,2)上肢の筋活動からみた動作修正開始のタイミシグと選手の内観の関係,3)卓球一流選手の瞬時の動作修正と従来の運動制御理論の関係,の3点であった.3年計画の3年目となる本年度は,卓球一流選手を対象とした実験,その理論的考察,及び研究全体の総括を行った. 被験者は,卓球一流選手1名とした.実験は,卓球台と同色の微小な砂塵を被験者側コートに撒くことにより,イレギュラーバウンドが発生しやすくなっているコートにおいて行われた.試技は,無回転ショートサービスに対するフォアハンドフリック打法による強打でのレシーブとした.レシーブ時の上肢の動きについては,利き手の前腕及び上腕における6種の骨格筋の筋放電と,手首及び肘関節の角度を測定した.被験者のラケットの動きと表情については,ビデオ映像に収録した.さらに,被験者の動作修正に関する内観については,打球ごとにインタビュー調査した. 「瞬時の動作修正を行った」と被験者が指摘する試技のいくつかでは,インパクト前後に40ms程度の長さの筋放電の休止時間が尺側手根伸筋等に見られた。収録映像と合わせて検討すると,それらの試技では,自領コートでのバウンド後のボールの弾道変化に関する視覚情報が処理され,動作修正が行われていたと考えられた.卓球一流選手の打球直前の動作修正については,運動プログラムの獲得と利用を仮定する従来の運動制御理論では十分な説明が困難であり,時々刻々入力される視覚情報によって制御されている可能性が示唆された.
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