研究概要 |
本研究は,泳ぐ動作の認識の度合いとパフォーマンスが一体どのようにマッチングしていくのか否かを縦断的に追跡・検証することである.本年度は、基本的な動作に焦点を当て,水泳熟練者のけのび動作の到達距離と投射角度,接地位置,重心移動速度,力発揮の関係からけのびのパフォーマンスを決定づける要因を明らかにした.結果の概要は以下の通りであった.到達距離と投射角度はR=0.23と有意な相関が認められなかったが,到達距離は1.6±2.6度と水面に対してほぼ水平に投射していた.到達距離と接地位置は,R=0.57(P<0.05)と有意な相関が認められた.特に,最高到達距離を出した被験者THは,接地位置が0.9±0.7mと他の被験者の0.6±0.1mに比較してより深い位置であった.従って,熟練度が高まるとより深いところで壁を蹴ることが推察された.一方,到達距離とリリース時の重心移動速度はR=3.50と有意な相関が認められなかった.しかし,リリース時から0.5秒後の重心移動速度と到達距離はR=0.85(P<0.05)と有意な相関が認められた.また、0.5秒後までに減速した速度の量と到達距離との関係もR=-0.52(P<0.05)と有意な相関が認められた.未熟練者のけのび動作の重心移動速度はリリースから0.5秒後までに急激に減速するのに対して,熟練者はなだらかに減速していくこと報告されている(合屋ら2000)。このことから,壁を蹴った後のストリームライン姿勢(前面抵抗の最も少ない姿勢)如何によって到達距離が決定づけられることが明らかになった.到達距離と力発揮のピーク値はR=0.23と有意な相関が認められなかったが,到達距離と力積はR=0.78(P<0.05)と,有意な相関が認められた.力発揮のパターンでは,到達距離の短い被験者は一度に大きな力を発揮しているのに対して,到達距離の長い被験者のけのび動作では,壁を蹴る時,十分な「ため」を作り出せる姿勢をとりながら蹴り出し(高橋1983),リリース後は,水の抵抗の少ない姿勢を保持しながら進んでいたことがわかった.また,体重を考慮した力発揮と到達距離の関係から,上手な者ほど少ない力で多くの到達距離に達することもわかった.
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