本研究の目的は、65歳以上の高齢者を対象に、12ヶ月間のプログラムされた身体トレーニングが、転倒状況を模擬した加速度外乱に対する立位姿勢保持能力に及ぼす影響について多角的に検討することである。 健康な在宅高齢者20名を2群(トレーニング群10名、対照群10名)に分け、トレーニング群に対し、12ヶ月間のプログラムされた身体トレーニングを実施させた。トレーニングプログラムはウエイトベルト(体重の5%の重さ)装着での爪先立ち・踵立ち運動、足関節と股関節のストレッチ運動、バランスボードによるバランス運動及びウエイトベルト装着での起立・歩行運動である。そして、トレーニング前とトレーニング12ヶ月後における加速度外乱に対する足圧中心応答時間及び動揺距離、ならびに足関節・膝関節・股関節の関節角度変化、下肢筋の筋電図の筋を比較・検討した。また感覚・運動機能及び起立・歩行能力の測定を行うとともに転倒に関するアンケート調査を行い、トレーニング前後で比較・検討した。その結果は、以下のとおりである。 1.12ヶ月間のトレーニングにより、加速度外乱に対する足圧中心の応答時間が早くなり、動揺距離が小さくなった。 2.12ヶ月間のトレーニングにより、加速度外乱に対して足関節が働き出す時間が早くなる傾向が認められた。また、足関節の変動が大きくなる傾向がみられた。足底屈・背屈筋の筋電図の筋放電潜時は、ほとんど変化がみられなかったが、これらの拮抗筋間の同時収縮レベルが小さくなった。 3.12ヶ月間のトレーニングにより、筋力、柔軟性、選択反応時間、片足立ち時間、重心動揺距離、起立時間及び歩行速度、歩幅の成績が良くなった。感覚機能には変化がみられなかった。 4.一方、対照群の各測定値及び分析値の12ヶ月による変化について検討したところ、すべての結果において成績が悪くなる傾向がみられた。 以上、本トレーニングを12ヶ月間実施した結果、加速度外乱に対する立位姿勢保持能力が向上した。その姿勢保持能力の向上の原因として、立位姿勢調節システムにおける中枢処理系(中枢神経系)及び効果器(筋・骨・関節)の機能向上が推察された。本トレーニングの長期間実施による転倒予防の可能性が明らかになった。
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