研究概要 |
本研究ではプレシード・プロシードモデルの構成概念であるPredisposing, Reinforcing, Enabling, Constructsが、これまでのスポーツ振興計画の中でどのように構成されているかいう点に着目した質的アセスメント法を開発し、わが国の自治体において共通に見られる高齢者スポーツ振興のシナリオを明らかにし、わが国におけるスポーツ振興事業の問題点と課題を提起することを目的とした。このため、文献研究、国内データの二次分析、都道府県調査、市区町村調査を実施した。これらの分析結果から得られた重要な点は、行動目標の設定と前提(内的)条件に集約されると考えられる。行動目標に関しては、運動・スポーツの定期的実施者や習慣者の増加のみが述べられているが、非実施者率の減少も考慮する必要があると思われる。定期的実施者や運動習慣者の割合は統計的に高齢期になるほどその率は高く、今後日本では超高齢社会を迎えることから、この割合は人口統計学的な背景によって増加することは必至である。高齢化による深刻な現象は定期的実施者と非実施者の2極化であり、これを考慮すると非実施者率を減少させるという目標も同時に設定する必要があると考えられる。また前提条件に関しては、その記載が計画の中に見られることは希であった。しかしながら環境がいくら整っても住民自身に行動の欲求が起こらなくては決して行動は起こらない。スポーツに関する知識、態度、信念に関する指標を設定し、これに影響を及ぼすような情報戦略あるいはキャンペーン活動が必要であろう。スポーツ実施率の高い諸外国に共通して見られるのは、スポーツ振興を計画する段階で成功へのシナリオが描かれているということである。すなわち、1)スポーツ参加が個人や社会にもたらす様々なベネフィット(便益)や効果が確認され、2)これらの便益や効果を最も引き出せるターゲットグループが選定され、3)このグループのスポーツ参加を促す要因や条件が明確にされ、そして最後に、4)これらの要因や条件を可能にするプロモーション戦略が周到に計画されていることである。政策は国レベルのものいう固定観念から脱却し、政策の作成、実践、評価が地方分権化していることが世界に共通して見られる傾向である。地方自治体ごとのユニークな運動・スポーツ振興を推進していく政策開発・実践能力が今後より一層問われる時代となろう。
|