研究概要 |
最近,我々も含めたいくつかのグループは繰り返し高強度運動時のVO_2応答の研究から興味深い結果を認めている。6分間の高強度運動を,安静をさんで繰り返すと,2回目の運動時にはVO_2、応答が速くなり,VO_2slow成分が減少するというものである。これは1回目と比較して,本運動ではO_2-deficitが減少し,引き続く疲労の進行が押さえられる,すなわち恩恵的なウオームアップ効果があることを意味する。この機序としては種々の要因が考えられるが,これまでの研究を概観すると,運動肢へいたる血流に起因する(O_2-deliveryの関与)という考え方と,運動肢内の何らかの要因に起因する(例えば筋繊維内の代謝過程のrate-limitingや筋繊維動員パターン,さらに筋動員パターンの関与)という考え方に大別される。そこで,本研究ではその成因を明らかにする目的で立案された。本年度は、前者の血流に関する要因に主眼をおいた検討を行った。運動肢への血流測定を行うために膝伸展運動を選択した。この運動様式の利点は,大腿鼠径部の大腿動脈上にプローブをあて,超音波ドップラー法による連続的で非侵襲な大腿動脈血流測定が可能な点にある。上述のような基準プロトコール中に,以下のような顔面冷却による血流低下条件を与えて,その際のVO_2応答を定量化した。1回目もしくは2回目の運動開始1分前から運動中3分目まで,冷却した特殊な柔らかいジェルパックを被験者前額部に押しつけ,三叉神経-脳幹-副交感神経緊張(diving reflex)により,中心・末梢循環を低下させた。そういった条件下で運動を開始した際に,果たしてVO_2応答は遅れ,VO_2 slow成分は増大するか否かを検討した。その結果,運動肢への血流量の人為的な低下にもかかわらず,VO_2動態は影響を受けず,運動肢への血流動態が直接的には関与していないのではないかと推察された。
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