研究概要 |
今年度は,運動の冠危険因子改善効果を検証し,その機序の1つとして末梢の微小循環改善が関与する可能性について検討した.某健康増進施設において冠危険因子改善を目的に運動療法を希望した42名を対象とし,運動療法として有酸素運動をAT心拍数の強度にて30分間,ストレッチ等を30分間,週2回3ヶ月間実施した前後に検査を行った.運動療法の効果として,血清脂質は総コレステロール,LDLコレステロール,HDLコレステロールには変化はなく,トリグリセライド(TG),レムナント様リポタンパクコレステロール(RLP-C),RLP-TGの有意な低下が認めら,TGリッチリポタンパク(TRL)代謝が運動療法により亢進したものと考えられた.そこでされに,このTRL代謝におけるkey enzymeであるリポタンパクリパーゼ(LPL)に対する運動療法の効果について検討した.LPLはヘパリン静注後の血漿を用いて測定するのが一般的であったが,近年ヘパリンを静注しなくても血漿中に微量存在するLPLの測定が可能となり,このLPL量(pre-heparin LPL mass)はヘパリン静注後LPL量,LPL活性と相関することが報告されている.そこでpre-heparin LPL massに対する運動療法の効果を検討したが,運動療法前後でpre-heparin LPL massの有意な変化は観察されなかった.すなわち運動療法後に,TRLの代謝に最も深く関与するLPLの変化なしに,TRL代謝が亢進するという結果である.このことはLPLに変化がなくとも末梢の筋をはじめとする組織で,微小循環改善に伴う血流増加によりエネルギー基質の利用が効率よく行われるようになった結果,TRL代謝亢進や糖代謝亢進が運動療法後に現れたことを強く示唆するものである.従って,末梢の微小循環改善がTRLなどの冠危険因子の改善の一因として関与する可能性が十分に考えられたが,今年度内に微小循環改善と冠危険因子改善との相関を検討するまでには至らなかった.
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