研究概要 |
本研究は、運動強度に対する循環及び筋組織酸素動態の応答から成人の上肢ワークキャパシティの評価に適した生理学的指標を明らかにすることを目的としている。はじめに20歳代女性16名(平均年齢21.6±1.1歳)に仰臥位で静的掌握運動を行わせ、負荷漸増に伴う血圧、上腕動脈血流量(超音波ドップラー法)及び前腕屈筋群の組織酸素飽和度(近赤外分光法)を測定した。血圧は、平均9.8±0.5kg、相対値では30.7±1.9(24.0-46.1)%MVCの負荷から急上昇した。運動中の上腕動脈血流量と負荷リリース後に見られる顕著な血流増加との関係をみると、運動中の血流量が需要の30%以下に抑制されると、血圧が上昇し始めることがわかった。また、前腕屈筋群の脱酸素化ヘモグロビンは36.1±2.1%MVC負荷から急上昇した。そして、両パラメータの間にはr=0.517(p<0.05)の有意な相関関係が認められた。したがって、血圧の急上昇負荷は血液供給と需要の不均衡に伴う代謝性の変移点を強く反映した指標であることが明らかになった。さらに、exhaustionに到った負荷(最高負荷)が高いほど血圧変移点の負荷も高く,血圧変移点負荷が筋ワークキャパシティを示す指標となり得ることが示された。次にこの方法を用いて35-58歳の健康な女性32名の血圧急上昇負荷を測定したところ、50歳代(N=11名)は9.8±1.0kgであり、30歳代(10.7±1.1kg, N=9),40歳代(10.5±1.1kg, N=12)に比べて低い値を示した。一方、筋厚(超音波B-モード法)との間には有意な相関関係は得られず、この方法で測定された上肢ワークキャパシティは筋量に依存するわけではないことが示された。以上の結果から、血圧急上昇は筋の持久的能力を評価する指標として有用であることが明らかになった。
|