従来より我々は、乳幼児歩行の発達過程の筋電図パターンから導いた歩行の不安定度指標は、中高年者の歩行の退行過程に適応できるのではないかと推定してきた。そこで今回、乳幼児歩行の発達過程の筋電図パターンを更に詳細に検討し、歩行の不安定度の筋電図的指標を作成し、中高年者の歩行の退行過程に適応してみた。また、成人・中高年者に老人型歩行の筋電図的兆候がみられた場合、筋電図バイオフィードバック法を適応し、成人型歩行への回復を試みた。 1)乳児型歩行(1-1.3歳頃)は非常に不安定な歩行を示す指標で、立脚期(ST)では中腰姿勢体前傾に働く腓腹筋(LG)、内側広筋(VM)、大腿二頭筋(BF)、大殿筋(GM)の持続放電がみられ、遊脚期(SW)後半では積極的な足底屈筋のLG、膝伸展筋のVMの放電が認められた。 2)幼児型歩行(1.3-3歳頃)は、少し不安定な歩行を示す指標で、非常に不安定な乳児型歩行にみられたSTの間の、膝屈曲位保持に働くVMの持続放電が消失したが、体前傾に働くSTのLG、BF、GMの持続放電は残存した。 3)成人型歩行(3歳以降)は、安定した歩行を示す指標で、少し不安定な幼児型歩行にみられたST前半のLG、STのBF、GMの持続放電が消失し、上体直立位で踵押し上げを効かした放電様相を示した。 4)筋力・バランスの衰えた高齢者歩行では、膝屈曲位保持に働くSTのVM、体前傾に働くSTのLG、BF、GMの持続放電、SW後半の積極的な足底屈に働くLGの放電がみられ、1歳頃の独立歩行習得初期(1-1.3歳頃)の、非常に不安定な乳児型歩行にまで退行することが示唆された。 5)成人・中高年者に老人型歩行の特徴である膝屈曲位保持に働くSTのVMに持続放電がみられた場合、筋電図バイオフィードバック法を適応し、STの間膝を伸展させることを意識させることにより、VMの過剰な持続放電が消失し、成人型歩行への回復を示す傾向が認められた。
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