研究概要 |
1980年代以降の体育授業研究における動向分析によって,そこでの研究方法論の中核となる「観察(者)システム」をめぐる問題に関わる予備的考察を行った上で,以下のような実験を試みた. 小学校体育授業を対象に,授業システムが作り出す位相空間に対する位置を異にする観察者=「当事者(実践者)」「同僚教師(現地参加観察者)」および「外部観察者」による授業観察を実施し,そこでの観察内容・解釈の比較・検討を試みた.そこでは,観察者の位置に関わる以下の点が示唆された. (1)外部観察者は,同一単元の授業を対象として系統的に観察回数を重ねることで,出来事を状況の前後(特に,「それ以前の発言・行為」)の文脈や教師-子ども関係,子ども相互の関係性の中で意味づけるようになる.(2)また,外部観察者の観察内容には,実践者の働きかけや子どもの理解など各々の関心に伴う個性的特徴があることが確認され,実践者の観察視野外の実践的な課題までも指摘する可能性が示唆された.しかし,実践者の個々の子どもへの思い,実践者の働きかけの背後にある状況に対する省察内容について解釈することには,一定の限界があることが示唆された.(3)同僚は実践者と終始対話的スタンスを取りながら実践と関わったことで,積極的な推論を含む状況的,文脈的な解釈を可能にする観察が行われることが示唆された. 上記の研究については,日本スポーツ教育学会第20回記念国際大会において口頭発表を行い,さらに,「授業研究における観察者の位置に関する事例的研究(1)-実践者・同僚・外部観察者による観察内容と観察可能性の比較-および(2)-個性記述法による外部観察者の観察内容の特質化-」の2本の論文として編集委員会により大会プロシーディングへの掲載を可と判定された.
|