しまなみ海道沿線地域8自治体の観光による地域振興の比較分析を通して、地域振興の地域的差異、それを規定する要因、さらには観光振興の地域波及メカニズムの構造の解明を試みつつある。現時点までに明らかになったことは、同じしまなみ海道沿線地域でも観光振興への行政の対応には大きな違いがあることが明らかになった。この違いを規定する要因として、一つは観光産業以外の主要な地域産業の存在の有無が上げられる。すなわち、造船や海運などの主要な地域産業が存在する場合には新たなる観光産業の育成のニーズが低いが、主要な地域産業がない場合には逆に観光産業の育成に積極的である。さらに差異を規定する要因は、行政トップの観光に対する考え方とリーダーシップである。瀬戸田町の前町長のように観光産業の重要さと他産業への波及効果の大きさを把握しているリーダーが存在した自治体では、観光産業への熱心な取り組みが見られ自治体の主要産業に成長している。さらに差異を規定するのは外部の有用な人材の登用であり、吉海町では人材登用の顕著な効果が認められる。 観光産業の育成は、住民の地域への誇り意識を醸成する効果も認められた。地域住民にアンケートを実施した結果、観光開発によるまちづくりで各種の賞を受賞している自治体ほど住民の誇り意識が高くなっていた。次年度は観光開発の地域への波及メカニズムを構造分析の手法などを用いて明らかにする予定である。
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