今年度は研究課題の2年目として、近世前期の市町形成について、主として市町の再編に関わる事象の究明に力点を置いた。近世前期において、これまで市町の再編が知られている秋田県、新潟県、そして関東地方に調査対象をもとめ広く資料収集をおこなった。なかでも、昨年度の事例調査で市町プランや市立ての具体像が判明する茨城県新治村高岡集落、会津盆地の喜多方(小荒井・小田付)および会津高田は、集落と住人の移動という観点から史料解読と現地調査をすすめた。しかし、高岡集落については住人の移動経歴を把握する史資料が不足しており、市町の再編という点を究明するにはより継続的な資料調査が不可欠との認識をえた。一方、会津盆地の市町再編は、既往の伊藤裕久論文に導かれつつも、とくに会津高田における市町拡大のプロセスが市町内部の「分家創出」によって支えられていたことが推定できた。目下史料解読をすすめている状況にあり今後さらに実証的に補説していきたい。 このほか、関東では中山道の整備に関わる宿場兼市町の形成についての史資料収集をすすめた。大宮台地中央部の上尾・桶川・北本・鴻巣を候補に現地予備調査を数回にわたって実施した。いずれも戦国末期に住人と集落の移動がなされ近世市町が形成もしくは再編されたと考えられる。予備調査では周辺村落の開発経緯と氷川神社をはじめとする寺社の由緒を精査した。鴻巣における小池氏、北本・桶川における深井氏など、戦国末期に土豪化した人物が台地上の開発と市町再編に積極的に関与していた事柄が注目される。こうした点は、秩父地方の市町形成とも類似しており、さらなる資料調査と現地の景観復原をおこないたいと考えている。 なお、2年間の本研究課題にかかわる成果のとりまとめについては、本学内研究紀要を中心に現在投稿中である。予定に遅れ本年度内に成果の公表ができないでいるものの、当初の予想以上に収集しえた史資料が豊富であった。今後さらに究明するべき余地を多く残している点でも、研究課題のさらなる深化をはかりたいと考える。
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