研究概要 |
中緯度高山地域に広く分布する岩石氷河内部には,氷の含有率の高い永久凍土が含まれているため,気候温暖化に伴う凍土の融解が崩壊や土石流を引き起こす可能性が高い.そのため,国際永久凍土学会の「岩石氷河の動態解析」委員会では,岩石氷河の挙動に関するモデルの構築を共同で進めている.本研究では,「岩石氷河への岩屑の供給過程」という観点からモデル化を推進することを目的とし,スイスと日本の岩石氷河群を対象として,岩壁からの岩屑の生産と岩石氷河への堆積,岩石氷河の内部構造の形成に関する調査・観測を行っている. 本年度は以下の研究を実施した.(1)岩壁で物理的風化に関する無人観測(岩盤の亀裂変位・温度・水分変化)により,亀裂進展時の温度・水分条件について検討した.(2)融雪期に岩石氷河上に堆積した岩屑の大きさと量を調べた.(3)岩壁から崖錐・岩石氷河にかけて,岩屑の粒径分布と堆積構造の変化に関する計測を行った.その結果,冬期の季節的凍結により岩盤内部の亀裂が拡大し,春の融雪直後に巨礫の落石が頻発することがわかった.これは,従来の凍結融解回数を岩壁の風化速度の指標にするという手法は無効であり,最大凍結深度の評価が重要であることを示す.また,礫径は崖錐下部ほど増加するが,岩石氷河上ではほぼ一定となった.到達距離が長い巨礫は崖錐を超えて堆積し,岩石氷河の流動によって表面の岩塊層が発達すると推定された. 平成13年度は,以上の観測・調査を継続するとともに,岩石氷河のボーリングによって内部構造を調べ,三次元的な堆積構造の形成過程について検討を加える.また,平成13年9月に日本で開催される第5回国際地形学会議において,日本アルプスの調査地域への野外巡検を企画しており,その際に世界各国の岩石氷河研究者と研究成果について議論し,研究を総括する予定である.
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