研究概要 |
中緯度高山地域に広く分布する岩石氷河内部には,氷の含有率の高い永久凍土が含まれているため,気候温暖化に伴う凍土の融解によって崩壊や土石流が引き起こされる可能性が高い.本研究では,「岩石氷河への岩屑の供給過程」という観点から岩石氷河の挙動のモデル化を目的として,スイスと日本の山岳地域に発達する岩石氷河群を対象に,背後岩壁からの岩屑の生産と岩石氷河への堆積過程,および岩石氷河の内部構造の発達過程に関する調査・観測を行った. 調査・観測項目は次の通りである.(1)岩壁上での亀裂成長とその温度条件に関する無人観測.(2)融雪期の岩石氷河への岩屑堆積量と粒径の計測.(3)岩壁から崖錐・岩石氷河にかけての岩屑の粒径分布と堆積構造の変化の計測.(4)ボーリングによる岩石氷河構成物の含氷率と岩屑の供給過程の検討.(4)比抵抗映像法による岩石氷河構成層の厚さと体積の推定. 研究成果は以下のようにまとめられる.(1)冬期の季節的凍結により岩盤内部の亀裂が拡大し,春の融雪直後に巨礫の落石が頻発する.したがって岩屑生産量は,凍結・融解頻度よりも,最大凍結・融解深度に依存する.(2)到達距離が長い巨礫は崖錐を越えて堆積し,岩石氷河の流動によって表面の岩塊層が発達する.このような崖錐斜面上での転石の分級によって二層構造が発達する.(3)近年の気候温暖化により岩石氷河の流動は加速傾向にあるが,これは一方で岩屑層の厚さと表面傾斜を減少させるために,いずれ流動は減速に転じる可能性が高い.また,積雪条件を反映した流動速度,の年々変化も有意である.(4)最終的に,背後岩壁からの岩屑供給速度と岩石氷河の三次元的流動速度の観測結果に基づいて,現在の岩石氷河の物質収支をモデル化した.
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