研究概要 |
1.これまでの研究と本年度の研究目的 21世紀の高齢社会においては、「個人の枠をしっかりと確保し、最も身近な配偶者と親和的な関係を築くと同時に、外部の多様なネットワークとも繋がり、重層的な関係のなかで生きるということ」が理想的な老いの姿となるであろう。こうした理想的な老いを実現するためには、老いの入り口にあたる50代の高年期に家族関係(特に夫婦関係)や社会関係の再構築(仕切り直し)を行う必要がある。平成12年度の研究では夫婦関係の再構築尺度を作成し、再構築状況を把握すると共に、それに影響する要因を明らかにした。平成13年度の研究では、12年度調査から選び出した13名を対象に、結婚3〜40年に及ぶ夫婦としての歴史を夫婦関係の危機との関連で把握すると共に、危機解決にどのような資源が活用されているか、また現在におけるパーソナル・ネットワークの現状などをインタビュー調査でとらえた。平成14年度の研究では、パーソナル・ネットワークの現状と夫婦の情緒的統合およびウェルビーイングとの関連を明らかにした。平成15年度は、平成13年度に実施したケーススタディを危機発生-対処-適応の二重ABC-Xモデル(McCubbin, H.L.)に当てはめて分析しようとすると、情報不足のあることが判明したので、追加のアンケート調査かインタビュー調査を行った。対象者は8ケース。 2.結果 1)夫婦危機は、男性では、経済的困難、仕事の重責からの家庭逃避、仕事に対する配偶者の無理解など、仕事との絡みで発生している。一方、女性では、子どもの病気看護と仕事との両立に対する配偶者の非協力・無関心、道楽や浮気など、配偶者が夫・父役割を果たしていないことが原因で夫婦危機が発生している。2)危機への対処としては、認知(出来事の困難性・家族状況・危機回復のための要件などについての認知)と個人資源の動員が最も大きな効果をもっていた。3)夫婦危機は、高度経済成長期の夫の長時間労働と高収入、バブル崩壊とともに夫の事業が危機に直面したことなどと関連したケースがあったことから、社会・経済状況によっても規定されているといえる。
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