研究概要 |
本研究の目的は,多重債務者の生活再建にむけてどのような社会的支援が必要かを明確にすることであった。平成14年の自己破産は全国で21万4636件と,平成元年の約23倍に増加している。沖縄県も,県民所得,可処分所得が全国最下位,失業率,離婚率,無業者率(高卒,大卒とも)が全国1位という社会経済的な背景のもと,人口10万人あたりの自己破産と特定調停件数の合計は2554.1と全国1位となっており,多重債務問題は深刻な状況である。 多重債務問題は特に低所得者層にとって構造的に発生する可能性の高い生活リスクとなっている。そのために,本研究で行なった調査を含め,複数の文献でも,多重債務の原因となっている理由の第1に生活費の不足が挙げられていた。また,借金理由には,年代別,ジェンダー別の特徴があり,その特徴にあわせた消費者教育や啓発が必要であることがわかった。本研究の対象となった多重債務世帯では,金銭問題以外にも,失業,低所得,不十分な子どもの教育,住宅問題,健康問題,家庭不和等の問題をかかえていた。さらに,健康保険を支払えずに病院に行けない事例や国民年金への未加入も含め,普通の人が普通に行なっている社会のメインストリームから排除される状況がみられた。 このような状況に対して,自己破産,特定調停等の法的問題解決は,あくまで事後処理であり低収入や失業等の低所得層の生活を変える根本的な解決にはなっていない。本研究では,低所得者対象の多面的支援として住宅政策,教育アクセスの平等化,生活保護の柔軟な適用,杜会的ネットワークの充実,雇用確保,低利融資へのアクセス等について論じた。
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