日本の代表的な調味料であるみそ・醤油からは多くの香気成分が検出されているが、著者は赤色系辛口米味噌に代表される発酵型熟成味噌の特有香気成分としてHEMF(4-hydroxy-2(or 5)-ethyl-5(or 2)-methyl-3(2H)-furanone)を同定し、みその熟成過程で酵母が関与して生産することを明らかにした。また、酵母によるHEMFの形成機構を解明する目的で、炭素源や窒素源をかえた液体培地で耐塩性酵母Zygosaccharomyces rouxiiを培養し、ペントースであるリボースとアミノ酸を同時に加熱殺菌して調製された培地でHEMFが形成されることを確認した。従って、酵母はペントースとアミノ酸のアミノカルボニル反応によって生成されたHEMFの前駆物質にアセトアルデヒド様の化合物を提供すると推察している。本研究では培地調製時に、リボースとグリシンのアミノカルボニル反応によって生成するであろうHEMF前駆物質形成への、その他の培地成分の関与と、リボースの濃度によるHEMFの形成への影響を明らかにすることを試みた。その結果、リボースとグリシンから生成されるHEMF前駆物質は、培地中にリン酸緩衝液が含まれている場合に、安定して形成される可能性が高いことが明らかになった。また、HEMF形成に適した培地中のリボース濃度は20mmol〜300mmolの範囲にあると推測された。一方、一般的にみそ汁は加熱しすぎると風味の低下を招くことが指摘されている。そこで、匂いの評価用語を用いて、みそ汁の風味低下の現象をより具体的に表現することを試みた。さらに、GC-O分析とAEDA法を用い、FDファクターを求めることによってみそ汁の香気に重要な影響を及ぼす成分の特定を試みた。その結果、HEMFやmethionalが特定され、これら成分の加熱による分解や生成がみそ汁の風味低下に大きく影響することが確認された。また、匂いの評価用語を用いた加熟による風味低下の評価を、機器分析の結果からもほぼ確認することができた。
|