研究概要 |
申請者は、生体内での葉酸の機能を、化学的に正確な量を基礎として解明するための研究を推進している。葉酸の欠乏によりメチル期転移反応が阻害されると、血漿中のホモシステイン濃度が上昇して、血管内皮などに酸化的傷害を引き起こし、動脈硬化等疾患の一因になることが最近注目されている。しかしながら、葉酸の主要な貯蔵臓器である肝臓をはじめとした血漿以外の組織中でのホモシステインの動態については、ほとんど明らかにされていない。そこで、本年度は葉酸欠乏過程における各組織中のホモシステイン濃度の変化を検討するとともに、過酸化および抗酸化物質の動態を明らかにし、葉酸欠乏によってもたらされる生体内の酸化ストレス亢進の可能性を検討した。離乳直後のラットに葉酸欠乏食を与えて飼育したところ、5週目より貧血の症状が認められた。肝臓、腎臓、脳の葉酸誘導体は、還元条件下で抽出し、電気化学的に検出する方法により、特異的に定量した。その結果、肝臓ではテトラヒドロ葉酸(THF)、5-メチルTHF,5-ホルミルTHFが、腎臓ではTHFが、各々2週目から有意に減少したが、脳では主要な葉酸誘導体であるTHFが、欠乏期間を通してほぼ一定の値を示した。次に、葉酸欠乏過程におけるホモシステイン濃度の動態を検討した結果、血漿中では2週目から、肝臓、心臓では4週目から対照群に対して有意に上昇したが、脳のホモシステイン濃度は対照群との差がみられなかった。過酸化の指標であるTBARSは、肝臓,腎臓,心臓において有意に上昇した。抗酸化系で作用するビタミンCとグルタチオン量を測定したところ、ビタミンC量は血漿,肝臓,腎臓,心臓において、グルタチオン量は肝臓において、有意に減少した。一方、脳のTBARSとビタミンC量は、ホモシステイン濃度と同様に、対照群との差がみられなかった。以上より、葉酸の欠乏によって、脳以外の組織中のホモシステイン濃度が上昇し、その結果酸化ストレスが亢進していると考えられた。
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