研究概要 |
生体内での葉酸の機能をより明らかにするために、葉酸欠乏食を与えたラットを用いて、その欠乏過程における各組織中のホモシステイン濃度を検討するとともに、ラットのメチル基代謝に及ぼす影響と過酸化および抗酸化物質の動態を検討した。 葉酸欠乏群のホモシステインは、血漿,肝臓,心臓において有意に上昇したが、腎臓および脳では対照群と有意差が認められなかった。血漿ホモシステインの上昇が、動脈硬化症の一因になることから、その診断マーカーとして使用されている血漿中のコレステロール,遊離コレステロール,HDL-コレステロール,リン脂質,トリグリセリドの各濃度を測定したところ、リン脂質のみ葉酸欠乏群で有意に低い値を示した。メチル基代謝に関与するS-アデノシルホモシステイン(SAH)量、SAH-hydrolaseおよびL-メチオニン-S-アデノシル(MA)transferaseの活性は、肝臓において有意に上昇し、SAM量,SAM/SAH比は、有意に減少した。しかしながら、脳においてはこれらの値に有意な変化は見られなかった。過酸化物であるTBARS量は、肝臓,心臓,腎臓において、欠乏6週目に有意に上昇した。抗酸化系で作用する物質の動態を検討したところ、ビタミンC量は肝臓,心臓,血漿において、ビタミンE量は肝臓と血漿において、有意に減少した。グルタチオン量は、肝臓において有意に減少したが、グルタチオンペルオキシダーゼ活性は、有意な変化は示さなかった。以上の結果より、肝臓においては葉酸欠乏によりメチル基代謝が変化したが、脳においては影響をうけないことが判明した。また、肝臓,腎臓,心臓では、葉酸の欠乏によって酸化が亢進していたが、脳においては葉酸欠乏による酸化ストレスをうけないことが明らかになった。
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