研究概要 |
1.ビタミンC合成酵素の遺伝子レベルでの研究 ビタミンC生合成の最終段階を触媒するL-ガラクトノラクトンデヒドロゲナーゼ(EC1.3.2.3,GLDH)の遺伝子をタバコBY-2細胞にアンチセンス方向に導入した形質転換体のうちAS1-1とAS2-2の2つがアンチセンスRNAを発現していることが判明した。AS1-1およびAS2-2は元のBY-2細胞のアスコルビン酸(AsA)レベルの24%、27%と低かった。AS1-1とAS2-2のGLDH mRNAの発現は著しく抑制され、GLDH活性も著しく低くなっていた。AS1-1とAS2-2の細胞は細胞分裂が抑制され、mitotic indexが元の細胞より低く、細胞の生長速度も遅れた。これらのカルスと元の細胞のカルスの形態は異なり、細胞は異常に細長くなった。また、タバコの葉にGLDH遺伝子をセンス,アンチセンス方向に導入した形質転換植物体をつくり解析した結果、アンチセンスRNAを発現している形質転換植物はストレスに弱く開花前に死滅した。センス方向に導入した形質転換植物のAsA量が元の植物に比べ顕著に増大している個体は得られなかった。 2.ビタミンC合成酵素の活性増大メカニズムの解明 サツマイモのGLDHのcDNAを大腸菌細胞で発現させGLDHタンパク質をSDS-PAGEで確認し、ゲルから目的バンドを切り出し、うさぎを免疫してGLDHに対する特異抗体を得た。この抗体はサツマイモおよび他の植物のGLDHを認識することが判明した。サツマイモおよびジャガイモを切断、放置するとAsA量が増大し、2日後に最大になり、以後減少した。GLDH活性および特異抗体を用いたウエスタンブロット法で測定したGLDHタンパク質量は切断後1日間に最も増大し、以後高値が続いた。GLDH活性とGLDHタンパク質量がパラレルに増大したので、切断ストレスに伴うGLDH活性の増大はGLDHタンパク質のde novo合成によることが示唆された。 本研究により、ビタミンC合成酵素(GLDH)活性は遺伝子レベルで制御されており、アンチセンスmRNAを発現させるとAsA量が減少し、植物体はストレスに弱くなるし、細胞レベルでは細胞分裂、生長、植物細胞の構造に変化が起こることが示唆された。また、切断ストレスにより活性が増大するときは、GLDH遺伝子が発現しGLDHタンパク質がde novo合成されることが判明した。
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