昨年度の研究により明らかになった知見、即ち卵白アルブミン(OVA)同様、β-ラクトグロブリン(β-LG)も常温下で脂肪酸塩(FAS)誘導ゲルを形成し得るが、両者のFAS誘導ゲル形成に至るまでの時間(形成速度)には顕著な違いがある事に立脚し、その違いが何に基づくものなのかを、周波数可変型レオメーターを用いた動的粘弾性測定により検証した。また、これら2種のタンパク質は共に動物性の球状タンパク質ではあるものの、元来含有するタンパク質2次構造含量に大差がある。そこで昨年明らかにしたFAS誘導β-LGゲル形成時の高次構造変化に加えて、OVAの場合にも同様の実験を行う事により、FAS誘導ゲル形成時の種々のタンパク質レオロジーと高次構造変化の相関性を探った。その結果、 1、各タンパク質の加熱変性温度以下での、タンパク質-FAS混合系の動的粘弾性の周波数依存性を比較する事により、β-LGの方が25℃での周波数依存性が大きい事、35℃、45℃の各温度における貯蔵弾性率と損失弾性率の差がOVAの方が大きい事が、常温下でのゲル形成にβ-LGの方がより長時間を要する事の一因になっていると示唆された。 2、FT-IR分光分析を用いたタンパク質二次構造変化の比較研究から、OVAのFAS誘導ゲル形成時には、α-ヘリックスの減少に引き続くβ-シートの増加が観察されたのに対して、β-LGの場合には分子内β-シートが分子間β-シートに変換された事から、タンパク質二次構造は各タンパク質が元来含有しているβ-シート量に依存して変化し、β-シートが元々多いβ-LGの場合にはα-ヘリックスの減少に引き続くβ-シートの増加は顕著ではなく、むしろβ-シートの分子内から分子間へ転換が顕著に観察される事が示唆された。
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