研究概要 |
キビナゴは鮮度の低下が速く生食には向かず、刺身というよりは、一般家庭では煮たり、焼いたり、揚げたりという調理法が主流である。そこでキビナゴがなぜ傷みやすいか、キビナゴの脂質酸化について一般に良く食べるマアジと比較することによって、キビナゴの性質を調べた。水溶性タンパク質量は、筋肉1g当たりキビナゴ49.7mg、マアジ50.0mgとほぼ同じ値を示した。次に、タンパク質1g当たりの脂質過酸化活性を調べると、マアジは筋肉、血合いに活性が認められたのに対し、キビナゴは皮、内臓、筋肉、血合いすべてに活性が認められ、特に筋肉の活性が高かった。脂質酸化の生物学的要因として、ヘムタンパク質とリポキシゲナーゼが考えられるが、70℃および100℃の加熱により活性は完全に失活した。マイワシのメトミオグロビンは加熱に極めて安定なため、キビナゴの脂質酸化にはミオグロビンなどのヘムタンパク質の影響は少なく、リポキシゲナーゼによることが推測された。リポキシゲナーゼは、脂質の主要な構成成分であるリノール酸やリノレン酸のような、シス-シス-1,4-ペンタジエン構造を有する脂肪酸やそのエステルに高い基質特異性を有するので、キビナゴ筋肉の基質特異性について調べた。その結果、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、リノール酸メチル、トリリノレインすべてに活性が認められた。シス-シス-1,4-ペンタジエン構造を有する脂肪酸やそのエステルに高い基質特異性を有したので、キビナゴ筋肉の脂質酸化酵素は、リポキシゲナーゼ様の酵素であることが推測され、また、その酵素の最適pHは、pH7であることも認められた。
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