研究概要 |
赤身魚のキビナゴ(Spratelloides gracilis)は,ニシン目ウルメイワシ科に属し,本州の太平洋沿岸中部以南にかけて漁獲される,全長は約10cm程度の小型魚である.キビナゴは鮮度の低下が極めて速いため生食は産地に限定され一般に煮たり,焼いたり,揚げたりという単純な調理法が主流である.また,キビナゴは冷凍保存しても劣化が極めて速いことが示されているが,その機構については解明されていない. そこで本研究では,品質劣化が極めて速いため,加工,貯蔵が困難なキビナゴに着目し,なぜキビナゴが酸化的劣化が速いのか,その劣化機構を一般によく食用とされるマアジと比較することによって検討した. その結果マアジでは,血合い肉のみに顕著な脂質過酸化活性が認められたのに対し,キビナゴは,血合い肉だけでなくその他の組織でも活性が認められた.キビナゴ血合い肉の強い過酸化活性はミオグロビンを主体とするヘムタンパク質に起因するものと推定された.一方,キビナゴ皮,普通肉にはエステル脂質にも作用し,熱失活する脂質過酸化因子が存在することが明らかになった.諸性質からリポキシゲナーゼ様酵素と推定されるが,リポキシゲナーゼと断定するにはなお酸化生成物の構造解析が必要である. キビナゴでは皮以外に血合い肉はもちろん,普通肉,内臓にも対照としたマアジよりも強い脂質過酸化活性が認められた.こうした諸因子がキビナゴの保存性が劣る原因となっているもの推定された.
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