研究概要 |
阿蘇カルデラ周辺地域に分布する中〜後期更新世の阿蘇火砕流堆積物および中部・東北・北海道に分布する阿蘇4降下火山灰の古地磁気測定を行った。計81地点の試料から,最大70mTまでの段階交流消磁によって残留磁化の安定成分が分離できた。段階熱消磁実験,IRM獲得実験および三成分IRMの熱消磁実験結果から,それらの試料中の磁性鉱物は,主にマグネタイトあるいはチタノマグネタイトであることが明らかになった。残留磁化測定用の火山灰試料はそのままでは熱消磁実験ができないので,火山灰試料と石膏を用いた調合試料を作製した。 阿蘇火山は大型のカルデラをもつ複合火山で,約27万年前から約9万年前の間に,阿蘇カルデラを給源とする大規模な火砕流の噴出を含む噴火サイクルが4回(Aso-1,-2,-3,-4)あったことが知られている。これらの火砕流の溶結凝灰岩の測定からは,それぞれの噴火サイクルで特徴的な古地磁気方位が得られた。Aso-1とAso-4はほぼ北向きの通常の正帯磁の方位を示し,Aso-2は異常に深い伏角(約70°),Aso-3は大きく東偏する偏角(約35°)を示すことが分かった。 Aso-4ではサブユニット間で古地磁気方位に差が見られ,大分県のAso-4AとAso-4Bでは4Bの伏角が4Aより約5°浅くなった。これは地磁気永年変化を反映したものであり,約50年の時間差を示すものである。 阿蘇4降下火山灰は,Aso-4A(や八女軽石流,八女粘土,および宇部火山灰層下部)とほぼ同時期に堆積したこと,そしてこれらの古地磁気方位からこの時期の日本列島の地球磁場には大きな地域差が見られないことが明らかになった。つまり,一つの双極子磁場成分(DF)が優勢な地球磁場中で獲得されたものであり,その双極子磁極は全平均VGPと一致する。Aso-4A噴出時の地磁気分布を明らかにするために,日本列島を8つの地域に分け,各々の地域の地球磁場(LF)の方位を,地域平均VGPから計算した。8つの地域でDFとLFを比較したところ,α_<95>の範囲を超えるような地域磁気異常は見つけることができなかった。本研究結果と既報の古地磁気研究とから判断すると,日本列島における地磁気分布に有意な地域的な方位差を見つけることは難しいのかもしれない。Aso-4A噴出時に地域磁気異常が存在したとするとするならば,それらは本研究で分けた8つの地域よりもさらに狭い範囲に存在するはずである。
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