研究概要 |
研究のまとめを行い,得られた成果を学会や専門雑誌に発表することを行った。 得られた主たる成果は,日野がこれまで構築してきた「数学的表記の内化の過程」の精緻化を行ったことである。「数学的表記の内化の過程」とは,児童が,授業で教師が導入する表記に対して行う意味づけの過程である。児童は,最初から正しい意味づけをしてはおらず,また,それは時間が経てば自動的に可能になるといった単純なものではない。「内化の過程」では,子どもの意味づけは少なくても3つの相(「初期の使用」「基準の構築」「目的的使用」)を経て進み,そこでは,子どもの積極的かつ構成的な営みが不可欠であることを指摘した。 本研究では,この枠組みに基づいた指導ユニットを開発し,それを実際に実践する中で,子どもの思考の変容を追跡・分析した。そして,3つの相が,個々の児童の比例的推論とどのように関わりあっているのかを分析し,「数学的表記の内化のメカニズム」として知識獲得モデルを精緻化したのである。これによって,子どもが関心を持つ数学的表記は必ずしも教師が意図したものではないこと,子どもの間でもそれは必ずしも同じではないこと,子どもと数学的表記との相互作用も,子どもの学びの文脈づくりを反映し,必ずしも同じではないことなど,子どもの重要な個人差が分かってきた。また,児童の表記に対する個人的な意味づけが,他者の目が入ることで問い直され,見直されていくという,私的な場面と公的な場面の両方の重要な関わりがみえてきた。 本研究では,「数学的表記の内化のメカニズム」をうまく稼動させるという観点からの,指導に対する示唆も行った。また,このメカニズムを意識した比例に関わる単元の指導ユニットの具体例も示した.
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