初等幾何定理(証明問題)をコンピュータで大量生産するプログラムは一応完成させてある。そのプログラム実行時に用いる「証明の基礎となる事柄」つまり幾何公理的命題をいかに選ぶかが、本研究の重要な課題である。現在の中学校二年数学の教科書に載っている「証明の根拠となる事柄」はわずかな数であり、実際は暗黙のうちに多くの事柄が使われている。本年の研究方法の1つは、授業を観察し、生徒の発言や証明記述の中から証明の根拠としている事柄の抽出することであった。これに適した授業は中学二年の11月頃のわずかの期間のものにに限られる。本年は授業を4回観察して抽出を試みた。それにより得られた幾何公理的命題の例の典型的なものは「(折り紙のように)折り返してできた角は元の角と等しい」である。この例のように生徒の操作活動から生じる「証明の根拠となる事柄」が数多く存在しうることが分かったことは本年の大きな成果である。さらにこれまでの抽出を補うため、本年度は明治・大正期の旧制中学校や師範学校の幾何教科書を調べ、幾何公理的命題の抽出を行った。現在の教科書と異なり幾何公理の明白な記述もある。得られた幾何公理的命題は多いが、内容をそのままを証明の根拠としてプログラムを実行しては、現在の中学二年生に提示するのに適当な証明問題とはならないので、選別しプログラムを実行できる形の表現にすることを現在行っている。さらに明治・大正期の教科書には幾何公理的命題の記述だけでなく、推論方法解説の記述が見られ、現在できているプログラムの推論部分改良にとっての大事な資料を得ることができた。
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