研究概要 |
幼児前期(1-3歳)の頃から子どもは発話表現と同様にscribbleのような描画表現を始めるが、知的写実期から視覚的写実期への描画の質的転換期(おおよそ9-10歳)の頃から表現意欲の低下傾向が発現する。いわゆる「9、10歳の節」と呼ばれる現象である。 これまでの本研究では、(1)描画表現意欲低下の対象となる方法は、「想像をもとにした表現」よりも「観察をもとにした表現」に対してであること。(2)描画表現意欲の低下の対象となる題材は,風景,動植物,人物,器物のうちプロトタイプを多く含む人物画特に顔の表現に対してであること。などをプロトコル分析などの認知科学的手法によって示してきた。ここでは、こうしてモデル化された「描画表現意欲の低下傾向の要因」をコンピュータ描画に関して検討することを本年度の目的とした。 その結果、コンピュータを用いて描く場合、(2)の描画表現意欲の低下の対象となる題材は、特に認められなかった。ただし、描画表現意欲の低下傾向が認められる子どもは、ミキシングやフィルター機能によって、描いた具象物を編集してしまう傾向があることが認められた。紙上の描画を嫌う子どもには、頭髪を克明に描く事例、横顔ばかりを描く事例、人物を小さく描く事例などが認められたが、コンピュータ描画では、そのような事例が見当たらなかった。 紙上の描画を嫌う子どももコンピュータ描画については意欲が低度ではない。この原因を明らかにできれば、紙上描画の問題点も明確になるのではないかと考えられる。
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