本年度は、研究課題「前近代国語教育資料における近代国語教育原理の萌芽に関する基盤的研究」(平成12年度から14年度まで)の初年度にあたり、次のような研究を実行し、成果を得た。 1.京都大学、京都府総合資料館、および古書肆の資料については実地に、東京学芸大学望月文庫については、同附属図書館作成の画像データベースにより、文献調査を継続的に調査した。 2.1に基づき、主としてパーソナル・コンピュータを使用しての画像保存による収集をおこなった。 3.以上の研究をふまえ、次のような考察結果および成果を得た。 (1)近代国語教育の作文教科書として近世から流入してきたものに、いわゆる〈用文章〉があるが、東京府・長崎県などでは、明治十年代、学務課・師範学校などの手により、同じく近世に流行した〈消息往来〉系の教科書を基にした教科書が新たに編纂され、書簡作文の一翼を担っていたことが判明した。 (2)〈消息往来〉系教科書の起源は、安永七年刊『累語文章往来』であるといわれているが、新出の同年刊『御家消息字苑』の存在によって、すでに安永七年時点では少なくない〈消息往来〉類が出版されていたこと、およびそれらの大半が少なくとも手本としてはふさわしくない読本専用のものであったことが判明した。 (3)書道手本と書簡作文読本の両用を意図して作られた『御家消息字苑』には、近代国語作文教科書の源流の一つとしての〈消息往来〉系教科書の成立過程を考える上での独自の意義があり、「新出資料『御家消息字苑』(安永七年刊)-国語教育前史論7-」(『岐阜大学国語国文学』28号)に、その考察と全文を紹介発表した。
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