研究課題「前近代国語教育資料における近代国語教育原理の萌芽に関する基盤的研究」(平成十二〜十四年度)の成果として、論文A「新出資料『御家消息字苑』考-国語教育前史論7-」(『岐阜大学国語国文学』二十八号 平成十三年三月)および論文B「明治前期話しことば教育における談話書取教科書-国語教育前史論(終)」(『岐阜大学国語国文学』二十九号 平成十四年三月)を発表し、研究成果報告書において上記二論文を合冊収録した。 1.論文A (1)近世から流入し近代国語教育の作文教科書に影響を与えたものに、学務課・師範学校などによって編纂され、書簡作文の一翼をになった<消息往来>系の教科書がある。 (2)安永七年刊『御家消息字苑』の存在によって、すでに安永七年時点では少なくない<消息往来>類が出版されていたことが判明し、書道手本と書簡作文読本の両用を意図して作られた『御家消息字苑』には、近代国語作文教科書の源流の一つとしての<消息往来>系教科書の成立過程を考える上での独自の意義がある。 2.論文B (1)近代国語教育の中で西洋の国語教育のメソッドを取り入れて成立した分野と考えられているものに、「会話」と称される話しことば教育があげられるが、一方で、近世以来の作文(書簡文)の一環として作成された、「談話書取」を標榜する一群の教科書による話しことば教育が実施されていたこと。 (2)「談話書取」の特徴は、話しことば教育と作文教育の融合した総合的な教育方法にあり、それは従来の漢文学習方法の一つとしてあった「復文」を応用したものであった。
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