音楽的表現の認知の傾向について、聴取及び鑑賞の実態調査を行い「鑑賞におけるTempo rubatoの感知に関する研究」及び「同(II)」で発表した。音楽的な表現サンプルは、著名な演奏家の録音を素材とした。また非音楽的な表現サンプルとしては、恣意的な演奏の他に、コンピュータで作成したデータをアコースティックピアノで演奏させたサンプルを用いた。調査対象は、小学生・中学生・大学生(一般)・大学生(音楽専門)・熟達者である。 音楽的表現とされる中でも、特にTempo rubatoの感知について焦点づけ調査した。その結果、テンポの揺れ(聴取)では年齢差より個人差の方が優位であり、一方、音楽的な判断(鑑賞)では個人差より年齢差の方が優位であった。すなわち、音楽表現の聴取力の面では、音楽経験の量と相関することから、学習者に対して音楽教育(学習)活動の如何が問われることになる。また鑑賞の面では、音楽外的要素も含めた価値観形成の度合いが主要因である点から、学習者の幅広い体験が音楽性の判断に影響する。 音楽表現の評価は主観的な判断の影響を多く受けるが、従来主観的評価とされていた側面においても、ある程度の客観化が可能である。音楽表現の評価を客観化する具体的な方法として、価値判断や嗜好における「方向性」という視座での分析、比較聴取及び比較鑑賞の手法を用いて得られたデータを「多変量解析」することがあげられる。 音楽表現の客観的な評価が可能になることは、教科指導(学習)で「音楽表現の意味(意味論)」の視点からカリキュラム編成ができる可能性を示すことであり、合目的的な教材開発の視座が明確になることである。
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