Tempo rubatoに焦点づけ、実態調査を行った。音楽的な表現サンプルは、著名な演奏家の録音を素材とした。また非音楽的な表現サンプルとして、恐意的な演奏とコンピュータ作成のデータをアコースティックピアノで演奏させたサンプルを用いた。その結果、テンポの揺れでは年齢差より個人差の方が優位であり、一方、音楽的な判断では個人差より年齢差の方が優位であった。すなわち、音楽表現の聴取力の面では、音楽経験の量と相関することから、学習者に対して学習活動の如何が問われることになる。また鑑賞の面では、音楽以外の要素も含めた価値観形成の度合いが主要因である点から、学習者の幅広い体験が音楽性に影響していることが分かった。 音楽的表現における熟達度の評価について、音声表現における熟達を、「息が流れている状態」と捉え、この観点を顕著に示す波形解析の方法として、Power包絡の解析が有効であることを示した。さらに、音楽表現が熟達している、すなわち「息が流れている」表現の特徴を、Power包絡の視点から分析した結果、「0.02〜0.06秒の波形が連続的に存在すること」と、「0.001〜0.003秒の微細な波形が存在しないこと」の二つの条件が満たされる必要があることを示した。 またアンサンブル表現における「音の連携」を評価の観点として、その熟達度について考察した結果、Sonagram分析が有効である。さらに、音楽表現を評価する際に、過去の表現との比較が必要であることから、演奏データのデジタル化が重要である。MIDIデータは、学習者へのフィードバック情報として、WAVデータは、波形解析情報としての蓄積に有効であることを示した。
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