昨年度、日本人大学生の英語力下位群の英語(L2)と日本語(L1)の作文プロセスを比較した。本年度は、英語力上位群が用いるライティング方略を比較した。分析は、昨年度と同様に、ポーズ時における内観報告の分類を中心に行った。さらに、二群が用いる方略の比較を行った。分析の結果、以下のことが明らかになった。 1、下位群の英語と日本語の作文ブロセスは、相違点がみられたのに対し、上位群は類似点が顕著であった。この結果は、L2言語力がある程度ある場合は、L1とL2の作文プロセスは類似することを示唆している。 2、書く前に大筋のプランをたてる上位群と、次に書く局所的プランをたてながら書き進む下位群というように、群によって用いたストラテジーは異なった。一方で、両群とも、プランニングのし方が日本語と英語で概ね同じであった。これは、個人内でストラテジー使用がL1からL2へ転移することを示唆している。 3、英作文産出プロセスは、書き手の英語力により違いがみられた。書きたい内容の棄却、縮小、修正をせざるを得ない下位群に対して、上位群は自分の英語力の範囲内で表現化ができる。さらに、英作文産出中のL1の使用に関して、二群間に違いがあることが示唆された。 4、上位群が、下位群とは異なるストラテジーを用いて、下位群より質の高いL1とL2作文を書いたとする本研究の結果は、個別言語とは無関係の作文力の存在を裏付けるものである。 本研究の下位群のような英語学習者に、上位群が使っているライティング方略を育成するためには、どのような英作文指導を行えば教授効果が期待できるのかという課題が残った。
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