本研究は、漢字の学習活動の記述的分析を行い、これからの漢字学習支援に資することを目指したものである。漢字学習は日本語教育における古くからの問題であるが、どのような学習活動が必要か・行われているかについての知見はなかった。くわえて、日本語教育における現在の漢字学習研究の問題点は、1)認知科学的研究と現場との橋渡し、2)学習者のストラテジー調査はあるが教師の側からの調査がない、3)学習方法について体系的な分析がない、ことである。そこで、本研究では、認知研究から演繹的に「漢字学習活動上を導き出すと同時に、漢字学習を支援する側が、意識的・無意識的に漢字学習活動をどう捉えているかを明らかにし認知研究からの知見と比較することを主眼とした。教師側のデータについては、当初、質問紙を用いた数量的分析を考えたが、ベースラインとなるデータが存在しないため、質問紙を作成するためのカテゴリを抽出するために、グラウンデッド・セオリーによる質的分析を行った。非日本語母語話者の漢字認知研究からは母語圏による学習活動の違いを導き出すことができた。また学習研究・メタ認知研究からは、学習者の認知過程を視野に入れた学習活動の設計についての知見を得ることができた。教師の側からのアプローチでは、質的分析のリソースによって異なった観点の学習活動カテゴリが見出された。特に、教える側の漢字学習についての考え方は、ボトムアップ的であり、目的志向的なトップダウン志向は見られないことは、現在のアプローチは、学習者のメタ認知能力を育成し自律学習を育てるためには不十分であることを示す大きな成果である。また、従来の教育心理学的研究法では、教師の自由記述から質問カテゴリを生成し質問紙調査を行っていたが、漢字学習活動の調査に当たっては、教師の自由記述だけでは不十分であるという知見も得られた。
|