研究概要 |
本研究では,異能力混在型の学級が常態であるブラジルの日本語学校での授業を手がかりに,このような学級に対する日本語教育の指導について何らかの方向性を見いだそうとするものである。このために,ブラジルでの授業の事例とともに日本の小規模学校で実施されている複式指導をブラジルに応用した例をコミュニカティブ・アプローチの観点から分析し,欧米におけるマルチレベル・クラスの知見も参考にしながら指導のあり方を考察した。 この研究を通して得られた結論は,能力差・個人差をブラスの要素として受け止める視点があれば異能力混在型学級が豊富なコミュニケーション体験の場となりうることである。能力差・個人差がマイナスの要因として受け止められている限り,ブラジルで実践された日本型複式指導や現在行われている個人別複式授業のように活動が教師対個人,教師対集団に特化した指導になり,言語素材の操作を中心した学習に止まることになる。 そこで本研究では能力差・個人差を乗り越える方法論としてタスク活動に注目した。タスク活動は学習者に実際に言語を使用する場を与えると同時に,異能力者間のペアやグループ活動でも十分に対応できる柔軟性を備えており,今回筆者がブラジルの現場で試行実践したタスクでもそれが確認できた。しかし,現場での運用ではタスクに対応したシラバス等の変更等,ドラスチックな変革は現実的ではなく,個々の学級の実態に合った形で,例えば総復習の活動として位置づけるなど,徐々にタスク中心の授業に移行していくことが望ましいであろう。
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