1.本年度の調査の概要 本年度の研究実施計画にもとづいて、滞在5年以上の在日外国人について予備調査を行った。ネットワーク研究の方法論として有力視されている「友人の友人」という関係にある日本語準母語話者を選定し、インターアクション・インタビュー、およびリコール・インタビューを行った。とくに、社会言語的および社会文化的な規範についてデータを収集した。 2.新たな知見 (1)問題分析を行ったところ、家庭、交友、趣味・文化、日常生活、教育、仕事、公的生活、言語、社会言語の各領域(domain)で、日本人とのインターアクションに対する留意が見られた。 (2)留意の内容をカテゴリーに分類すると、信条・一般的印象、人間関係、役割関係、話題、コミュニケーションの点火、意図・感情の表現態度、サービス・消費生活、場面固有の行動、日本社会に特有の現象、などがあった。 (3)インターアクションに関する留意は、同国人ネットワークと日本人ネットワークの両方で見られたが、同国人ネットワークでは、とくに日本人との交友領域での留意内容とその解釈が互いに交換されていた。ネットワークを通じた外国人のコミュニケーション規範の習得が示唆される。 (4)収集された留意内容ごとに、評価プロセスを分析した。単純評価と評価プロセスが何回かにわたる複雑評価とがみいだされたが、とくに複雑評価が規範の習得にとって重要ではないかと考えられる。 (5)評価において援用される規範としては、母語規範、特定の接触場面に対する期待、他の場合との比較、能力の有無、などがあった。このうち、期待と比較は、接触規範あるいは中間規範を形成する可能性のあるものとして注目に値すると思われる。 以上のように、いまだ知見は部分的にすぎないが、データ数を増やすことにより、さらにコミュニケーション規範習得のモデルの構築を試みたい。
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