平成12年度から14年度まで3年間、本調査研究では質的な調査を行い、日本語準母語話者のコミュニケーション規範について、その異文化コミュニケーションの評価プロセスと調整プロセスについて分析した結果、日本語準母語話者は多重文化使用者として3種類の規範をネットワークや領域に応じて使い分けていることが明らかになった。さらに、そうした異文化管理がパーソナル・ネットワークによっても抑制されていることも明らかにした。研究の結果をまとめると以下のようになる。 (1)異文化コミュニケーションの評価は、日本に固有な場面、人間関係・役割関係、話題、感情・意見表出、個人的な能力(日本語能力を含む)などで否定的な評価が多い。単純評価および複雑評価のうち、複雑評価は、評価の固定化につながる累積的評価と、異文化習得につながる再評価があった。 (2)肯定的評価および否定的評価は、母語文化と相手言語文化の相違と類似、相手言語文化コミュニケーションでの出来事の比較、によって生成されている。母語文化ネットワークからの評価の再生産は見つけられたが、多くの場合は、具体的な経験に基づいて評価が行われている。 (3)異文化インターアクションの調整において、共通文化規範、相手文化規範、接触規範のそれぞれに向かう調整が見られ、規範促進と規範抑制の調整ストラテジーが明らかになった。とくに、接触規範に向かう調整では、日本語コミュニケーション規範に同化したり疎隔したりするのとは異なる規範生成プロセスが見られた。 (4)家族や友人など情緒的、総合的なネットワークのほとんどは母語文化ネットワークに集中している。評価の多<、調整の大部分は相手文化ネットワークで行われ、とくに社会関係がつくられる第4次ネットワーク(仕事領域、教育領域など)、日常的活動が行われる第5次ネットワーク(日常生活領域など)で否定的評価が多く見られた。この2つの領域は日本語母語話者、日本語準母語話者双方から否定的評価が報告されており、日本事情や異文化コミュニケーション教育が集中すべき領域であることが示唆された。
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