本調査は2000年から2003年にかけて13名の在日外国人に対するインターアクション・インタビューを用いて採集した具体的に経験した出来事に対する評価と選択された調整行動の報告に基づいている。分析の結果、以下の点が明らかになった。 (1)在歴などに関係なく、家族や交友などの情緒的かつ包括的なネットワークは、母語文化ネットワークによって、日常的かつ個別的なネットワークは相手文化ネットワークによって占められていた。 (2)本語非母語話者は評価において、母語文化規範をベースとする場合と、相手言語文化規範(=日本)をベースとする場合が見られた。否定的評価の多くは社会的役割関係を経験する仕事や教育領域と、人間関係を結ばない日常生活とに集中して報告された。さらに1回限りの単純評価と数回の出来事にまたがる複雑評価とが見られたが、複雑評価は一方で評価を固定化してしまう場合も見られたが、多くの場合には相手言語文化規範の理解へと向かう傾向が見られた。 (3)インターアクションの調整は、母語文化規範の維持あるいは抑制に向かう調整、相手文化規範の促進あるいは抑制に向かう調整、交渉によって中間的な規範形成を試みる接触規範に向かう調整が見られた。接触規範に向かう調幣は、行動自体は相手規範に従ったり、特例を認めてもらうように交渉したりするなど、日本人との共生を目的としたストラテジーとして注目される。 以上のような結果から、日本の社会文化規範をそのまま習得していくという単線モデルによっては日本語コミュニケーション規範の習得プロセスは理解できないことが示唆された。むしろ、そこには自分の持っている社会文化規範との相克があり、相手文化規範に対する消極的な回避や積極的な受け入れがあり、さらにはプライベートな管理によって接触する相手との間に新たな規範を作り上げようとするなど、複雑で動的なメカニズムが見られる。
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