この研究の目的は実習授業における実習生の発話、行動のパターンを分析し、その問題点を探るとともに、経験者の授業の形態との比較・類型化を図ることであった。 平成12年度1年間に渡って録画した文教大学外国人留学生別科の中上級クラスの実習授業と経験者の録画テープ資料を、引き続き整理、分析した。実習授業の録画テープは8名各3回の24授業分、約12時間12分分、経験者の録画テープは3名各2回から6回の11授業分、約12時間21分分であった。これらを発話で区切って整理し、かな文字に変換した後、発話ごとに拍数、時間を計算し、発話者ごとの1発話の拍数に基づく長さと速度を計算した。これにより教師側から学生に流される情報量の多寡を量れると考えたからである。その結果、経験者は発話数が多く、1発話が長く早い。つまり経験者からは圧倒的に多量の情報が流されることが確認された。それに比して実習生は発話数も少なく、1発話が短く遅い。また沈黙が多量に生起する。つまり情報量が少ないということが確認された。 次に教師学生の隣接ペアにおける開始発話の文末系と理解誘導に至る方策を分析した。その結果、実習生の発話には学生の行動を指示する発話が多いが、経験者は行動指示よりも内容理解目的の発話が多い。その後、教師側の質問発話から解答取得に至るまでのエクスチェンジを逐行動的に分析し、教師が学生を理解までそのように誘導するかを観察し、類型化した。その結果、経験者においてはやりとりの多いこと、様々な方策を持つことが確認された。また展示型質問系と参照型質問系使用の実習生と経験者の差異を観察すると、経験者は展示型質問系が多く、学生に自己の理解を発表させて教室作業=読解作業を進めていくが、実習生は参照型質問系を使用して、学生の生活・行動に対する直接的な質問をする傾向にあることがわかった。 最後に非言語行動のうち、笑いと間(沈黙)に注目した。笑いは、教師・学生相互間に発生するものを隣接ペアにおいて見た。経験者は笑いによる教室誘導に成功しているが、実習生は成功率が低く、指示が不鮮明なため学生からのごまかし笑いを誘発している。間(沈黙)において実習生はエクスチェンジとエクスチェンジの間に発生する。また言いよどみが多く、展示型質問の後に出る。これに比して経験者はエクスチェンジの内部に生起することと1発話内生起してもトピック転換の役割を果たしていること、また点検の役割を果たす参照型質問後に出ている。 以上のように情報量の多寡、開始発話の文末系および質問系、非言語行動としての笑い・沈黙を中心に経験者と実習生の授業形態の差異を見たが、上級指導とくに読解指導のデータ、方策の記述は皆無に近い現在、今後とも分析・研究の必要があると思われる。特に教室内の教師と学生の非言語行動は既にデータに入力されているので引き続き分析していきたい。
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