測定値からmeasurement modelを用いて潜在変数(latent variables)を構成し、さらにこの潜在変数どうしの関係を定式化した構造方程式を推定する構造方程式モデルは近年多く利用されるようになってきた。構造方程式モデルにおいて不完全なデータがある場合にどのように推定を行ったらよいかについてもしだいに研究されるようになってきた。Lee(1986)はPsychometrika 51 Estimation for Structural Equation Models With Missing Dataにおいて一般化最小二乗法と最尤推定法によって欠損値をもった共分散構造モデルを推定するための方法について調べている。Allison(1987)はSociological Methodologyに収録されたEstimation of Linear Models With lncomplete Dataの中で欠損値を持ったLISREL modelの最尤推定法を論じている。しかしながらある欠損パターンにおいて標本数が少ない場合、これに対応した標本分散・共分散行列が特異になり逆行列が得られないためアルゴリズムが収束しないという問題が指摘されている。Jamshidian and Bentler(1999)は欠損値をもったデータに対する平均・共分散構造の最尤推定法にEMアルゴリズムを用いた方法を提案しており、上記のAllison(1987)の提案した方法の問題点を克服している。 本年度はまずこの分野の先行研究の網羅的調査を行うとともに、データを用いてこの方法のもつ推定上の問題点などを探った。これが研究発表欄に掲げた第一番目の論文である。また応答変数に無視できない非応答がある可能性を考慮したパラメーター推定方法を多項累積確率のロジスティック回帰モデル(プロポーショナル・オッズ・モデル)に拡張し、これを米国Consumer Reportsの自動車の信頼性データに応用して推定不可能性が存在しないことを経験的に確かめた。この2番目の結果はこの5月のIMS主催のSpring Research ConferenceでPricing automobiles to reflect their perceived quality differential in the U.S. automobile marketというタイトルで発表することになった。
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