本研究では、電流値を情報担体とする電流モード多値回路を活用し、高速化・低消費電力化・高信頼化に優れたVLSIシステムを構築することである。電流モード多値回路のスイッチング速度を向上させるため、本研究では、MOS差動対回路を基本構成要素に選定した。MOS差動対回路は、入力電圧振幅が小さい場合でも高い出力電流駆動能力を有している。このため、同一消費電力の下で高速スイッチングが可能となる。電流モード回路は、最大の特長である「結線による電流線形加算」と電流値をコピーする「カレントミラー」、多レベルの電流値を識別する「電流比較回路」、多値電流を生成する「出力生成回路」から成っている。上述したMOS差動対回路は電流比較回路および出力生成回路を構成するために活用する。カレントミラーを高速化するため、本研究では、カレントミラーのない電流モード多値回路を提案している。電流線形加算された多レベル電流信号をPMOSトランジスタの線形領域を用いて多値電圧値に変換する。多値電圧に変換すればカレントミラーは不要になる。このように電流電圧変換を活用することで、カレントミラーによる遅延時間を低減することに成功している。カレントミラーを削除することで、電流比較回路が電圧比較回路に置き換える必要がある。これはMOS差動対回路が本来電圧入力であったため、回路構成がより簡単になることとなる。すなわち本研究では、電流線形加算(結線のみで実現)、電流電圧変換回路(PMOSトランジスタ1個)、電圧比較回路(差動対回路)、出力生成回路(差動対回路)を組み合わせることで、任意の多値論理回路が構成できることとなる。また、差動対回路を2線相補信号で駆動して電流駆動能力をさらに向上させる2線式電流回路モード多値技術、多値しきい値情報を信号線に重畳して電圧比較回路を削除する回路技術なども考案した。 上記の研究成果は、多値論理研究において世界で最も権威のある多値論理国際シンポジウム(ISMVL)に採録され、研究発表するなど国際的にも高く評価されている。
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