次世代の高性能マイクロプロセッサアーキテクチャとして注目を集めているVLIWアーキテクチャでは、並列実行可能な命令を短時間にメモリから演算器へと安定供給できるメモリシステムの存在が性能発揮の必要条件となる。本研究では、まず、VLIWアーキテクチャのための高性能な命令キャッシュ機構としてMULHI (MULtiple Hit)キャッシュ機構を提案した。MULHIキャッシュ機構では、無効命令(nop)を格納しないことによって、キャッシュメモリアレイの使用効率を高めることで高キャッシュヒット率を獲得し、高バンド幅のメモリシステムを実現する。 前年度までの研究で明らかとなっていたのは以下の通りである。まず、MULHIキャッシュが従来型のキャッシュと比較して高ヒット率を達成でき、それによって高バンド幅の命令供給機構が実現できる見通しを得た。次に、MULHIキャッシュのハードウェア機構の設計を行ない、命令パイプラインの動作を妨げることなく実装できることを示した。 本年度は、MULHIキャッシュの実装を進めるとともに、このメモリシステムの発展と応用を対象として研究を行なうことにした。本キャッシュシステムの特徴である高バンド幅を活かせる応用分野として、3次元コンピュータグラフィクスがある。従来のグラフィクスシステムでは、データ供給能力の制約により実時間画像生成が困難だったことから、その問題を解決すれば、実時間で画像生成できる可能性がある。そこで、本研究では、ソフトウェアシミュレーションを行ない、3次元画像生成システムに高バンド幅メモリシステムを組み込むことで実時間レイトレーシングが可能となることを明らかにした。
|