当初の計画通り、前年開始した移動オブジェクトのための分散オブジェクトトランザクションを設計・実装を完了するとともに、これらの移動オブジェクトと分散トランザクションを統一的に扱うためのオブジェクトリクエストブローカを構築した。これは移動オブジェクトの現在位置だけでなく、オブジェクトの複製性も抽象化し、アプリケーションプログラムに対して単一かつ固定的なオブジェクトとして見せかける機構となる。そして、前年度までに実装した移動エージェントシステム上に実装し、移動オブジェクトと分散トランザクションを統合し、そのプロトタイプシステムを実装した。これまで移動オブジェクトと分散オブジェクトトランザクションは通信遅延の削減という共通目的をもっていたが、その実装方法は大きく異なっていた。この機構は両手法を統合する点でさきがけに位置する研究となった。この機構を既存の分散オブジェクトソフトウェアから利用する方法として、オブジェクトリクエストブローカ(ORB)機構に対応した機構も導入した。これは移動オブジェクト内に実装するORBであり、既存分散オブジェクト向けアプリケーションの移植を行い、既存ソフトウェア資産との継続性も考慮する。なお、このオブジェクトリクエストブローカ機構も移動オブジェクト内に実装した。この他、この研究のアプリケーションとして、グループウェア及び分散検索、ネットワーク管理システムなどを実装し、実際的な利用を考慮した評価を行い、有用性を証明した。この際、オブジェクトの移動コストと一貫性維持コストの比較を通じて、アプリケーション要求とネットワークやコンピュータの性能に応じて、前述の両方式の選択基準なども明らかにし、動的な選択に道を開くものとなった。このほか、内外に対して研究成果の周知に努めた。
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