本研究の目的は、オブジェクト中心の活動およびコミュニーション中心の活動を融合したソフトウェアプロセスモデルを開発することにより、ソフトウェア分散共同開発に関する研究に理論的基盤を与えることにあった。両年度にわたる研究により、チーム構造モデルと呼ぶプロセスモデルを定義した。その概要は以下の通りである。 1.チーム構造モデルは、役割、役割の責任範囲、役割間のコミュニケーションリンクの3組からなる。ここで、役割とは、ソフトウェア開発や開発管理に関する活動の集合である。貴任範囲とは、役割集合の要素である活動の操作対象の集合である。役割間のコミュニケーションリンクとは、ある役割に含まれる活動と他の役割に含まれ活動間のリンクである。 2.上記モデルに従って、分散共同開発支援に必要な下記の諸機能を開発し、プロセス中心の統合環境のプロトタイプを実現した。 2.1 版管理システムのログ情報に統計的処理を施し、プロジェクトの進捗状況を判断するもとになるデータを抽出する機能を設計実現した。 2.2 一群のメールを会話分析手法により解析し、話題毎の討議の流れを自動抽出するアルゴリズムとシステムを開発した。また討議の流れごとに、その要約を作成するアルゴリズムとシステムの開発において基本的成果が得られた。これらの情報はチーム構造モデルにおける、コミュニケーションリンクの属性情報として利用する。 2.3 責任範囲が複数の計算機にわたる場合の複写制御の方式を設計した。 2.4 同時並行的な変更作業を調整する機能を持つワークフロー群を自動生成する方式について基本的な知見を得た。 3.上記チーム構造モデルを内蔵し、設定された抽象レベルで実世界の状況をシミュレートすることにより、漸増的矛盾解消を支援するプロセス実行エンジンに関して基本的知見を得た。
|