本研究では、分散システムの可用性を実現するために、計算機ネットワーク上で実現された共有オブジェクトに自己安定性(故障による破壊から自己修復できる特性)を持たせることの可能性を探り、その実現方法の提案と、その有効性の実証を目的とする。 自己安定という概念は、これまで、排他制御などの分散システムの能動的な制御に関して適用されてきたが、本研究が対象とする受動的な共有オブジェクトに関する研究は行われていない。 そこで、平成12年度は、まず、自己安定共有オブジェクトの定式化と、評価尺度についての考察を行った。提案した定式化では、 ・高度な可用性を実現するために、修復作業中も、共有オブジェクトを利用可能 ・共有オブジェクトの通常動作時の性能を劣化させない ・修復作業中も、共有オブジェクトの性能を劣化させない という特長を持つ。また、提案した評価尺度では、通常動作時の性能(共有オブジェクトに対する操作の実行にかかる時間計算量、通信計算量など)、故障からの修復作業中の性能、修復作業の計算量などを考慮している。 また、平成12年度は、上記の定式化による自己安定共有オブジェクトの実現可能性について検討した。具体的には、基本的かつ重要なオブジェクトである探索木、ヒープを対象に、1台の計算機上に自己安定オブジェクトを実現する方法を提案し、提案した実現方法の性能解析を行った。
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