本研究の目的・着想に至った経緯は以下のようなものである。すなわち近年のネットワーク技術の進歩にともない、広域に分散した環境における情報処理の様々な技術の開発・研究が進められている。なかでも、ネットワークによって結合された複数のサイト間を移動する計算主体を用いる処理技術の可能性は、深い関心を集めている.このような背景より、移動型並行計算に関する理論の確立は、移動計算系を用いた様々な情報処理の技術の理論的基礎となるもので、重要な研究課題である。 本研究では、さまざまな移動計算の形態のうち、扱う対象を特に技術的に応用形態が広く重要と思われる形態に絞って、それらについての理論的定式化を行なうことを目的とした。その結果本研究によって得られた成果は、主に以下のようにまとめられる。まず移動型並行計算の新たな形態としてのcode streamingの提案である。本研究では、プログラム・コードの転送を行う高階のプロセス間通信の形態として、従来の非同期通信の枠組みを拡張し、non atomicな高階の通信としてcode streamingを導入した。もうひとつの成果は、並行/分散システムにおける名前資源の有効範囲の新たな記述方法の導入である。この記述法は従来のモデルに比べて、複数の名前の有効範囲を正確に同時に表現することが可能であり、移動型計算におけるプロセス/メッセージの転送による有効範囲の入れ子関係の変化を明解に記述可能なものである。
|