研究概要 |
状況判断や意思決定が必要とされるとき,必ずしも手許に十分かつ正確な情報があるとは限らない.時間や資源の制約がある場合には,情報の補充や情報の真偽確認をはかろうとしても,それは不可能である.本年度は,このような場面のもとで,認知・判断・行為に関する人間と機械の協調形態を考察した.人間と機械の間での役割分担を定めることは「機能配分」とよばれ,様々な方策が研究されてきた.本研究では,静的機能配分の欠点を補うべく提案されている動的機能配分のうち,特に「人間の負担があるレベルを超えると,分担していた一部の機能を機械に渡す」など,人間の視点に立つ配分変更規則を持つ「適応的機能配分」(アダプティブ・オートメーション)に焦点を当てた考察を行った.すなわち,人間の情報処理プロセスを,(1)情報獲得,(2)情報解析,(3)意思決定,(4)行為実行の4つのフェーズに分類し,各フェーズでの自動化レベル(人間と機械の役割分担)の設定を議論することの重要性を示した.さらに,適応的機能配分の実現に本質的役割を演じる概念が「権限共有」と「権限委譲」であることを明らかにした.また,複数のサブシステムから構成されるプラントの監視制御を模するシミュレータを構築し,状況認知のための動的注意配分過程を観測した.この実験から,プラントの安全制御に関わる情報獲得方策は,統計的意思決定論に基づく情報獲得方策とは異質な性格を有することを確認することができた.しかし,これは必ずしも統計的意思決定論のモデルが無意味であることを示すものではないことも明らかにした.すなわち,非確率論的な意思決定を行う可能性がある人間と,確率論的モデルに基盤を持つ意思決定エージェントがチームを組んだ場合の安全制御成績は,各々が単独で示す制御成績よりも優れていた(統計的に有意な結果であることを確認している)からである.
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