研究概要 |
本研究では、平成10・11年度に受けた科学研究費補助金「萌芽的研究」で達成した成果に、さらに基礎的課題を研究し、「音声モンタージュ」の可能性について探求することを目的としている。 昨年度は、これまでに抽出した声質表現語を用いて、聴取印象に関する各種の記憶実験を行った。その結果、「はじめて聞く人の声であっても、人間は聞いた声質の情報をある程度の期間、ほぼ正しく保持できる能力を持っている」と言う大前提を確認することができ、「音声モンタージュ」実現の可能性を示す一つの根拠が得られた。 今年度は、声質表現語の音響関連量について、さらに調査を進めた。音響関連量間の独立・従属をグラフィカルモデリング法により確認し、聴取実験を通して得た評価との関係を非線形の決定木解析により求めた。その結果、「高い声」では、基本周波数に次いで話速が大きい要因を示すなど、一般的な線形の重回帰分析による解析よりも、妥当な結果が得られた。 また、これまでに抽出した声質表現語に加えて、発話様式や聴取者の価値観を含む、パラ言語及び非言語特徴の適切な日常表現語の構築に着手した。国語辞書を丁寧に読み、調査者の経験に基づき、見出し語の中から声に関する表現語を収集したところ、調査に用いた「新明解国語辞典第5版」に収録されている約75,000語から、声に関する表現語として3,076語が選出された。さらに、回答者数や明らかな同義などを考慮した結果得られた872語について、「声質に関係する表現語」、「発話様式に関係する表現語」、「発話様式の要因を持った声質を表わす表現語」、そして、聴取者の好悪などの価値観を色濃く反映するものに分類した。これらの言語特徴には、声質表現語とはまた違う個人性情報が含まれていると考えられ、適切な日常表現語の構築は、本研究の今後の展開に役立つものと考える。
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