研究概要 |
本研究は,脳内で記憶情報が神経スパイク信号によってどのように表現されているかを知るために,(A)神経細胞がどのような条件でスパイク信号を発生し,どのくらいの情報を送ることができるか,を知る目的の脳切片スライス実験,(B)スパイク信号を送る神経細胞集団の数理モデルを構築し,その集団が入力シグナルに応じていくつかの状態を選択することができるか,を知る目的の理論的研究を,4年計画で推し進めたが,平成15年度はこの4年計画の最終年度に当たる.(A)脳切片スライス実験について:京都大学医学部に派遣した院生の実験技能も確立し,変動電流通電実験に必要となる補助装置を導入し細胞内通電実験,変動電流通電実験を開始し,当初目的とした解析用データが出そろって,ついに軌道に乗り,データに基づいたモデル選択の研究も始まった.(B)数理モデルの構築について:スパイク生成モデルの数値シミュレーションの環境を整えて実験データとの比較によるモデル選定の段階に入っている.これらに加えて,大脳領野の神経活動データの分析に関してあたらしい発見があった.行動中のサルから得られたスパイク時系列の分析を通して,その時系列を生成した神経細胞の種類,細胞がおかれている層,などに関する情報を抽出することが可能になることを示した.特に,局所変動係数Lvと名付けた測度を導入し,活動中のサルから計測された神経スパイク時系列の特性を数値化したところ,スパイク時系列が大きく2つのタイプに分類できること,それらが新皮質細胞層と強く相関していることを発見した.
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