日本語のゼロ代名詞と名詞句指示表現の解釈には、高度の文脈依存性が見られる。本研究の第一の目的は、これらふたつの現象に焦点をあて、指示表現の解釈を可能にしている文脈使用に関わるいくつかの理論を比較検討し、とくに日本語の指示表現の解釈をもっとも適格に説明、予測できる枠組みを新たに提示しようとするものであった。第二の目的は提示した理論の実証研究として、理論的枠組みをコンピューターの実装に生かすことであった。 3年間の主要な研究成果は、以下のようにまとめることができる。 1.関連性理論(スパーバー、ウィルソン共著1995年)の枠組みを用いた日本語のゼロ代名詞、および名詞句指示表現の理論的研究がまとめられた。「文脈効果」と「処理労力」の均衡、さらに「文脈効果の期待」と「発話の言語情報」との相互作用が、ゼロ代名詞を含む指示表現解釈において重要な要因として指摘された。[研究代表者] 2.海外研究協力者とともに、名詞句指示表現のオンライン解釈プロセスを解明するための実験が始まった(於カリフォルニア大学サンタクルズ校)。今後も継続して行われる予定である。[研究代表者] 3.実証研究に進展がみられた。当初期待されていたセンタリング理論の長所を生かし、短所は機械学習を用いた照応解析を応用することで改良するという方法で、精度の高い手法が提案され、評価実験でも高い成功率が確認された。[研究分担者] これらの成果は国内、国外の学会での研究発表、及び論文の形で発表され、それぞれ質の高いフィードバックを得ることができた。
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