今年度は、以下の3つの問題について研究を行った。 (1)二方向重畳広視野運動刺激に対する運動残効知覚の解析二方向重畳広視野運動パターンを構成する二つの独立な運動成分の速度が異なる場合、どのような運動残効が知覚されるかを調べた。一方の運動成分の速度を7.0deg/sec(静止パターンをテスト刺激とした場合に運動残効の持続時間が一番長くなる速度)とし、他方の運動パターンの速度をこれより速くすると、運動残効の方向は一方向であること、そして運動残効の方向は、速度差が大きくなるにしたがって、遅い運動成分の運動方向の逆方向に近づくことがわかった。 (2)二方向重畳運動刺激パターンに対するニホンザル視覚連合野(MST野およびMT野)における方向選択性細胞の反応特性の解析運動残効の方向認知特性が視覚連合野に存在する方向選択性細胞の自発放電レベルの分布によって説明できるかを検討するため、互いに運動方向が直交する運動パターンからなる重畳刺激に対する方向選択性細胞の反応を調べた。MST、MTの両野において、二つの運動成分の加算ベクトル方向への運動に対して、細胞は最大反応を示した。この結果は、二つの運動成分の速度が等しい場合における運動残効の方向が、自発放電の分布モデルによって説明できることを示唆している。 (3)一方向運動刺激と二方向重畳運動刺激における運動方向認知特性の比較解析被験者に短時間広視野運動刺激パターンを提示して方向認知特性を調べると、テスト刺激のスピードによらず、一方向運動パターンに比べて二方向重畳運動パターンの方が、方向認知に必要な刺激提示時間は長くなった。この結果は、二方向重運動の方向認知に必要な情報処理過程が、二方向運動認知の処理過程に比べてより複雑、またはより多くの過程を含むことを示唆している。
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