研究概要 |
比較的短時間(10秒〜30秒程度)で終わる一定の手作業を、常識を超える回数・年月にわたって繰り返し、作業時間の変化を調べている(技能習得実験)。周知の「練習の巾乗法則」(以下単に「法則」)によれば、作業時間は回数の巾乗に比例して単調に減少していくはずである。 だがその種の実験では、ほとんどすべての場合に「法則」からは予想されない規則的変動が現われる。それは当事者には、好調時とスランプの交替する波として認識される。その波の成因を知りたい。 作業課題としては、主として「創作折り紙作品を急いで折る」というもの(折り紙課題)を用い、またあやとりを取り上げて同様の結果を得た。本年度は、1.折り紙課題による実験を、3名の参加者について続行した。2003年1月末日現在、参加者PAは2,447日108,855試行、PE1は1,767日74,141試行、PE2は1,846日80,086試行を完了している。 2.新規に組木パズルの分解・組み立て作業による実験を試みた。折り紙におけると同様の現象が、比較的早期から、顕著に現われた。 3.蓄積したデータを見渡してみたところ、伝統的解釈とは大きく違う新解釈が浮かび上がった。従来は、「法則」が示す予測値の上下に、規則的変動がノイズとして乗っているのだ、との暗黙の了解があった。だがノイズは、むしろ基本的予測値の上に乗っているように思われる。 この種の実験では、ときに作業が飛び抜けてすばやくできてしまうことがある(そのような記録的好成績を「見晴らし台」と呼ぶ)。「法則」は、実は見晴らし台のみをつなぎ合わせた線を予測しているのではないか、と思われる。この新解釈により、絶えず10秒を超える振幅で変動しているデータに、2本の巾乗曲線の重畳をほぼ1秒以内の誤差で当てはめることができた。あやとり、組木パズルでも同様の結果を得ている。
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